大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)2272号 判決
控訴人
花 谷 強
被控訴人
宮 本 智 子
右訴訟代理人弁護士
小野原 聡 史
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決三枚目裏七行目の「した」の次に「(以下「本件担保権」ともいう)」を、同四枚目表四行目の「につき、」の次に「原判決」をそれぞれ加える。
二 同五枚目表一行目の「および被告の再々抗弁」を除き、同三行目の「ついて」の次に「原判決」を、同四行目末尾に「昭和六三年三年二三日現在の元本入金額は一四〇万一九一四円であり、残額二五九万八〇八六円が残元金として残っている。」を、同裏一行目の次に以下のとおり、それぞれ加える。
「2、同2、3は、いずれも否認する。七 再々抗弁 」
三 同二行目の「2(一)」を「1」と、同六行目の「(二)」を「2」とそれぞれ改め、同九行目の「定められた書面」の次に「(以下「一七条書面」ともいう)」を加え、同末行の「(三)」を「3」と改める。
四 同六行目表二行目の「交付する」を「振り込んで支払う」と改め、同三行目の「書面」の次に「(以下「一八条書面」ともいう)」を加え、同五行目の「(四)」を「4」と、同七行目の「(五)」を「5」と、同末行の「債務」を「債権」とそれぞれ改め、同裏二、三行目を除き、同四行目の「七」を「八」に改め、同行の「反論」を「主張」と改め、同五ないし八行目を除き、同九行目の「2項(一)」を「1」と、同一〇行目の「項(二)」を「2」とそれぞれ改める。
五 同七枚目表六行目の「項(三)」を「3」と改める。
六 同八枚目表八行目の「項(四)」を「4」と改める。
七 同九枚目裏五行目の「6」を除き、同六行目の次に以下のとおり加える。
「九 被控訴人の主張に対する反論
被控訴人の主張は、一七条書面及び一八条書面に関する軽微な瑕疵をもって貸金業法四三条の適用を排除せんとするものであって、控訴人に不可能を強いるものである。」
第三 証拠関係〈省略〉
理由
第一請求原因について
請求原因事実1ないし3は当事者間に争いがない。
第二抗弁について
抗弁事実は当事者間に争いがない。
第三再抗弁及び再々抗弁について
一再抗弁1の事実中、被控訴人が控訴人に対して、本件借受金債務につき原判決別紙計算書のとおり弁済した事実は当事者間に争いがない。
二再々抗弁について
債務者が債権者に対し支払った消費貸借契約上の金銭の支払は、それが、①貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づく支払であること、②債務者が利息として任意に金銭を支払ったこと、③その支払が一七条書面が交付された貸付に関するものであること、④右支払に際し、一八条書面が同条第一項所定のとおり交付されたことの各要件を具備する場合に限り、貸金業法四三条一項の規定により、利息制限法一条一項に定める利息の制限額を越える場合でも、当該超過部分の支払は、同条の規定にかかわらず、有効な利息債務の弁済とみなされる。
本件においてこれを見るに、控訴人が被控訴人に対して一八条書面を同条所定の方法により交付したこと(前記一④の要件)につき主張立証はなく、右書面交付の事実がないことは再々抗弁3の主張から明らかである。この点につき、控訴人は、本件貸付を行った際、両者間に、その債務の返済方法として、控訴人指定の銀行預金口座に、被控訴人が振り込んで支払うこととして、右振込金受取書をもって、一八条書面に代える旨の合意がなされたと主張する。しかしながら、貸金業法四三条一項の規定の趣旨を考えるに、同法は、消費者保護の立場から、契約書面、受取書面として記載すべき事項を法定しているのであって、右法定の記載事項を記載しなかった貸主には同法四九条三号で罰金を課するという態度をとっている。しかも、同法一七条一項七号、一八条一項六号によれば、右法定記載事項には大蔵省令に定める事項もすべて記載しなければならない旨規定されていて、そこにはいかなる除外事由も設けられていない。同法は、このように貸金業者に貸付における厳格な手続の履践を要求したうえで、右厳格な手続を履践した業者につき、同法四三条一項の要件を具備することにより、本来あくまでも利息制限法上は無効な弁済を、例外的に有効な弁済とみなすという特典を与えたものと解することができる。そのように解さないかぎり、貸金業者は、貸付時の優越的地位を利用して、一層簡易な書面の作成交付等の方法を一八条書面の作成交付に代える旨の合意を強要することが可能となり、同条が規定された意義は失われてしまうと言うべきである。さらに、同法一八条が受取証書の作成交付を要求する理由は、債務者が支払を行ったことを証明する書面の交付を目的とすることに止まらず、債務者に対して、いかなる債務のいかなる費目に当該支払分が充当されるかを明確に認識させることにあることは、同条所定の記載事項から明らかである。このように解するとき四三条一項は強行法規と証すべく、また、文理上の一八条二項の場合にふれていない。そうすると、同法四三条一項はあくまでも同条所定の要件をすべて厳格に履践することによって初めて適用されると解すべきであって、一八条書面の作成交付は同法四三条一項適用の必須要件であると言うべく、したがって、控訴人主張の振込金受取証は、単に当該支払分の支払の事実を証するにすぎず、一八条書面の作成交付には代わり得ず、また同法一八条二項の規定は、同法四三条の適用につき、同法一八条二項による弁済がなされたときに、一八条書面の交付を擬制するものではないと言うべきである。以上の諸点を考慮すると控訴人主張の合意は仮に成立していたとしても、右合意によって、前記④の要件の欠缺を救済することはできない。したがって、一八条書面の交付の主張を欠く控訴人の主張は、その余の要件の存否につき判断するまでもなく、全体として主張自体失当と言うべきである。
なお、控訴人は、一八条書面に関する軽微な瑕疵をもって同法四三条の適用を排除せんとすることは、控訴人に不可能を強いるものであると主張するが(事実摘示欄第二、九)、一八条書面の作成交付は貸金業者のなすべき法定の義務であり、かつその記載内容は貸金業者であれば容易に記載できるものであることは明らかであるから、右主張は採用できない。
以上によれば、再々抗弁は採用できない。
三再抗弁1について
前記一の当事者間に争いのない弁済分合計額四六八万一三九二円につき、利息制限法所定の利率年一五パーセントに基づいて、制限利息超過額を元金に充当すると、別紙元本充当計算表表示のとおり、昭和六三年三月二三日の支払によって、元本残高はなくなり、本件借受金債務は弁済により消滅したことが認められる。そうすると、再抗弁1は理由がある。
四再抗弁2について
〈証拠〉によれば、本件貸付に際して、控訴人と被控訴人との間に、右債権を被担保債権とする抵当権設定の合意が成立し、控訴人主張の譲渡による附記登記手続がなされたことが認められる。そうすると、前記三判示のとおり、本件担保権の被担保債権である本件貸付債権は弁済により消滅したことが認められるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件担保権もまた消滅したと言うべきである。したがって、控訴人は被控訴人に対し、本件登記の抹消登記手続をなす義務がある。
五再抗弁3について
前記二冒頭掲記の各証拠に、〈証拠〉を総合すると、再抗弁3の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠は存しない。したがって、控訴人は、本件貸金につき、本件賃貸借契約に基づく賃借権を有しない。
第四そうすると、被控訴人の請求をすべて認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法三八四条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官潮 久郎 裁判官杉本昭一 裁判官三谷博司)